行政書士試験記述式過去問分析(平成20年度)

行政書士

(本日のコンテンツ)
1 平成20年度(問題44)条文型
2 平成20年度(問題45)判例型
3 平成20年度(問題46)条文型

皆様、おはようございます。
今回、第1問が併合提起問題で、頻出感があるので、しっかりマスターしていきましょう。また、第2問が初めての判例型問題ですね。

1 平成20年度(問題44)条文型

(問題文)
Xは、Y県内に産業廃棄物処理施設の設置を計画し、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づき、Y県知事に対して設置許可を申請した。しかし、Y県知事は、同法所定の要件を満たさないとして、申請に対し拒否処分をした。これを不服としたXは、施設の設置を可能とするため、これに対する訴訟の提起を検討している。Xは、①誰を被告として、②いかなる種類の訴訟を提起すべきか。40字程度で記述しなさい。

※ 丸数字及び赤字などは、理解を助けるため、まるやが付したものです。

(当時の正解例)
①Y県を被告として、②拒否処分の取消訴訟と設置許可の義務付け訴訟とを併合して提起する。(41字)

(まるや解説:標準)
仮に、Xさんがあなたのところに、本件相談に来たとします。Xさんの目的は、産業廃棄物処理施設の設置許可を得ることなので、行政事件訴訟法(昭和三十七年法律第百三十九号。以下この記事において「行訴法」という。)第3条第6項第2号の義務付けの訴え設置許可をしろ!)を提起するよう、アドバイスをすることになります。
そして、この義務付けの訴えには、行訴法第37条の3第3項第2号の取消訴訟併合提起する必要があります、と申し添えます。

なお、大原の解説には、「取消訴訟ではなく無効確認訴訟でもいいよ。」と書かれていますが、無効が認められるのは、とんでもなく酷い場合なので、ここは素直に取消訴訟でいいでしょう。

で、ここまでで、②の部分の回答は可能です。

○行政事件訴訟法(昭和三十七年法律第百三十九号)
(抗告訴訟)
第三条 略
2~4 略
5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 略
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
7 略
第三十七条の三 第三条第六項第二号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができる。
一 略
二 当該法令に基づく申請又は審査請求却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること。
2 略
3 第一項の義務付けの訴えを提起するときは、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない。この場合において、当該各号に定める訴えに係る訴訟の管轄について他の法律に特別の定めがあるときは、当該義務付けの訴えに係る訴訟の管轄は、第三十八条第一項において準用する第十二条の規定にかかわらず、その定めに従う。
一 略
二 第一項第二号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴え
4~7 略

次に、じゃあ誰を訴えるのかというと、Xさんの目的は、産業廃棄物処理施設の設置許可を得ることなので、当該許可を行うことのできる者であるA県知事が属する団体であるA県が被告となります。故に、誰という、引っかけな問いかけですが、①は、A県知事ではなく、A県となります。

「誰」とあっても、知事ではないんですね。ここは、注意しておきましょう。

なお、令和3年度も「誰」とあって「文部科学省」と答えるところがあったのですが、模範解答は「文部科学大臣」。。。センターの単なる間違いなんでしょうねえ…

○行訴法
(取消訴訟に関する規定の準用)
第三十八条 第十一条から第十三条まで、第十六条から第十九条まで、第二十一条から第二十三条まで、第二十四条、第三十三条及び第三十五条の規定は、取消訴訟以外の抗告訴訟について準用する。(以下略)
(被告適格等)
第十一条 処分又は裁決をした行政庁(処分又は裁決があつた後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁。以下同じ。)が国又は公共団体に所属する場合には、取消訴訟は、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める者を被告として提起しなければならない。
一 処分の取消しの訴え 当該処分をした行政庁の所属する国又は公共団体
二 略
2~6 略
○農地法(昭和二十七年法律第二百二十九号)
(農地の転用の制限)
第四条 農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(農地又は採草放牧地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に関する施策の実施状況を考慮して農林水産大臣が指定する市町村(以下「指定市町村」という。)の区域内にあつては、指定市町村の長。以下「都道府県知事等」という。)の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。(以下略)

2 平成20年度(問題45)判例型

(問題文)
不動産の賃貸借において、賃料の不払い(延滞)があれば、賃貸人は、賃借人に対して相当の期間を定めてその履行を催告し、もしその期間内に履行がないときには、賃貸借契約を解除することができる。また、賃借人が、賃貸人に無断で、賃借権を譲渡、または賃借物を転貸し、その譲受人や転借人に当該不動産を使用または収益させたときには、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができる。ただ、上記の、賃料支払いの催告がなされた場合や、譲渡・転貸についての賃貸人による承諾が得られていない場合でも、賃貸人による解除が認められない場合がある。それはどのような場合かについて、40字程度で記述しなさい。

(当時の正解例)
【例1】賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたとは認められない特段の事情がある場合。(40字)
【例2】賃借人の行為が、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情がある場合。(39字)

(まるや解説:標準)
裁判所ホームページに対象判例の要旨がありましたので、「こいつは、ラッキー!」と思いましたが、この要旨には、覚えるべきキーワードがなかったので、やっぱり全文を貼り付けることにします。(--;

(2つのケース(判例)を問われているので、それぞれの該当部分を抜きだします。)
①右事実関係に照らせば、同被上告人にはいまだ本件賃貸借の基調である相互の信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意があると断定することはできないとして、上告人の本件解除権の行使を信義則に反し許されないと判断している
②賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益を為さしめた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、同条の解除権は発生しないものと解するを相当とする

(2つのケースをそれぞれの「場合」でまとめます。)
①本件賃貸借の基調である相互の信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意があると断定することはできないとして、上告人の本件解除権の行使を信義則に反し許されない場合
②賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合

(40字要件に合わせて修文します。)
①賃貸人と賃借人との信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意があると断定できず信義則に反する場合(45字)
②賃借人の無断転貸が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合(40字)

解答例は、いずれも特段の事情で括っていますが、判例を素直に読めば、(必要個所は、下線の部分です。)①は、信義則に反するで括るものでしょう。

主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理    由
上告代理人宮浦要の上告理由第一点について。
所論は、原判決には被上告人B1に対する本件家屋明渡の請求を排斥するにつき理由を付さない違法があるというが、原判決は、所論請求に関する第一審判決の理由説示をそのまま引用しており、所論は、結局、原判決を誤解した結果であるから、理由がない。
同第二点について。
所論は、相当の期間を定めて延滞賃料の催告をなし、その不履行による賃貸借契約の解除を認めなかった原判決違法と非難する。しかし、原判決(及びその引用する第一審判決)は、上告人が被上告人B1に対し所論延滞賃料につき昭和三四年九月二一日付同月二二日到達の書面をもって同年一月分から同年八月分まで月額一二〇〇円合計九六〇〇円を同年九月二五日までに支払うべく、もし支払わないときは同日かぎり賃貸借契約を解除する旨の催告ならびに停止条件付契約解除の意思表示をなしたこと、右催告当時同年一月分から同年四月分までの賃料合計四八〇〇円はすでに適法に弁済供託がなされており、延滞賃料は同年五月分から同年八月分までのみであったこと、上告人は本訴提起前から賃料月額一五〇〇円の請求をなし、また訴訟上も同額の請求をなしていたのに、その後訴訟進行中に突如として月額一二〇〇円の割合による前記催告をなし、同被上告人としても少なからず当惑したであろうこと、本件家屋の地代家賃統制令による統制賃料額は月額七五〇円程度であり、従って延滞賃料額は合計三〇〇〇円程度にすぎなかったこと、同被上告人は昭和一六年三月上告人先代から本件家屋賃借以来これに居住しているもので、前記催告に至るまで前記延滞額を除いて賃料延滞の事実がなかったこと、昭和二五年の台風で本件家屋が破損した際同被上告人の修繕要求にも拘らず上告人側で修繕をしなかったので昭和二九年頃二万九〇〇〇円を支出して屋根のふきかえをしたが、右修繕費について本訴が提起されるまで償還を求めなかったこと、同被上告人は右修繕費の償還を受けるまでは延滞賃料債務の支払を拒むことができ、従って昭和三四年五月分から同年八月分までの延滞賃料を催告期間内に支払わなくても解除の効果は生じないものと考えていたので、催告期間経過後の同年一一月九日に右延滞賃料弁済のためとして四八〇〇円の供託をしたことを確定したうえ、右催告に不当違法の点があったし、同被上告人が右催告につき延滞賃料の支払もしくは前記修繕費償還請求権をもってする相殺をなす等の措置をとらなかったことは遺憾であるが、右事情のもとでは法律的知識に乏しい同被上告人が右措置に出なかつたことも一応無理からぬところであり、右事実関係に照らせば、同被上告人にはいまだ本件賃貸借の基調である相互の信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意があると断定することはできないとして、上告人の本件解除権の行使を信義則に反し許されないと判断しているのであって、右判断は正当として是認するに足りる。従って、上告人の本件契約解除が有効になされたことを前提とするその余の所論もまた、理由がない。
同第三点について。
所論は、被上告人B2及び同B3の本件家屋改造工事は賃借家屋の利用の程度をこえないものであり、保管義務に違反したというに至らないとした原審の判断は違法であって、民法一条二項三項に違反し、ひいては憲法一二条二九条に違反するという。しかし、原審は、右被上告人らの本件改造工事について、いずれも簡易粗製の仮設的工作物を各賃借家屋の裏側にそれと接して付置したものに止まり、その機械施設等は容易に撤去移動できるものであって、右施設のために賃借家屋の構造が変更せられたとか右家屋自体の構造に変動を生ずるとかこれに損傷を及ぼす結果を来たさずしては施設の撤去が不可能という種類のものではないこと、及び同被上告人らが賃借以来引き続き右家屋を各居住の用に供していることにはなんらの変化もないことを確定したうえ、右改造工事は賃借家屋の利用の限度をこえないものであり、賃借家屋の保管義務に違反したものというに至らず、賃借人が賃借家屋の使用収益に関連して通常有する家屋周辺の空地を使用しうべき従たる権利を濫用して本件家屋賃貸借の継続を期待し得ないまでに貸主たる上告人との間の信頼関係が破壊されたものともみられないから、上告人の本件契約解除は無効であると判断しているのであって、右判断は首肯でき、その間なんら民法一条二項三項に違反するところはない。また、所論違憲の主張も、その実質は右民違を主張するに帰するから、前記説示に照らしてその理由のないことは明らかである。所論は、すべて採るを得ない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官    田   中   二   郎
裁判官    石   坂   修   一
裁判官    横   田   正   俊
裁判官    柏   原   語   六
主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理    由
上告理由第一点について。
原判決の確定したところによれば、被上告人B1はかつて本件宅地上に建坪四七坪五合と二四坪との二棟の倉庫を建設所有し、前者を被上告人B2の父DにおいてB1から賃借していたところ、昭和二〇年六月二〇日戦災に因り右二棟の建物が焼失したので、同二一年一〇月上旬DはB1に対し罹災都市借地借家臨時処理法三条の規定に基き右四七坪五合の建物敷地の借地権譲渡の申出を為し、B1の承諾を得てその借地権を取得した、そこでDはB1の同一借地上である限り右坪数の範囲内においては以前賃借していた倉庫の敷地以外の場所に建物を建設しても差支ないものと信じ、その敷地に隣接する本件係争地上に建物を建築することとし、B1も亦同様な見解のもとに右建築を容認したというのである。 元来民法六一二条は、賃貸借が当事者の個人的信頼を基礎とする継続的法律関係であることにかんがみ、賃借人は賃貸人の承諾がなければ第三者に賃借権を譲渡し又は転貸することを得ないものとすると同時に、賃借人がもし賃貸人の承諾なくして第三者をして賃借物の使用収益を為さしめたときは、賃貸借関係を継続するに堪えない背信的所為があつたものとして、賃貸人において一方的に賃貸借関係を終止せしめ得ることを規定したものと解すべきである。したがつて、賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益を為さしめた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、同条の解除権は発生しないものと解するを相当とする
然らば、本件において、被上告人B1がDに係争土地の使用を許した事情が前記原判示の通りである以上、B1の右行為を以て賃貸借関係を継続するに堪えない著しい背信的行為となすに足らないことはもちろんであるから、上告人の同条に基く解除は無効というの外はなく、これと同趣旨に出でた原判決は相当であつて、所論は理由がない。
次に所論特約の趣旨に関する原審の判断は正当であつて何ら違法の点はないから、これを非難する所論も採用することはできない。
同第二点について。
論旨前半において指摘する原判示部分は、判旨いささか明瞭を欠くきらいがあるけれども、要するに、B1がDに係争土地の使用を許した前記行為を以て背信的行為とはなし得ないことの説明にすぎないことは、判示自体に徴し明かである。そしてB1の右行為が背信的行為とはいえないとの判断自体が正当であることは前記の通りであるから、原判決中所論部分の説明の不備を捉えて、原判決に理由不備の違法ありとする所論は、到底採用することができない。
また論旨後半のB1に背信的行為ありとの主張は、本訴の請求原因とは無関係な事実に関する主張にすぎないから、もとより適法な上告理由となすに足りない。
同第三点について。
原判決が上告人の被上告人B2に対する請求を棄却した理由について首肯するに足る説明を与えていないことは、正に所論の通りである。しかしながら原審の確定した事実によれば、係争土地に建物を建築しその敷地を占有する者はDであつて、その建築許可申請の便宜上被上告人B2の名義を使用したに過ぎないというのであるから、被上告人B2に対し不法占有を原因として建物収去土地明渡を求める上告人の請求はこの点において棄却を免れず、従つて右請求を棄却した一審判決を維持した原判決は結局正当であるに帰し、論旨は理由がない。
よつて民訴三九六条三八四条九五条八九条に従い主文のとおり判決する。
この判決は藤田、霜山両裁判官の少数意見を除き全裁判官一致の意見である。
藤田裁判官の意見は左のとおりである。
上告理由第一点について。
本件宅地二筆は、もと訴外Eの所有で同人はこれを被上告人B1に対し普通建物所有の目的を以て賃貸し、同被上告人は右地上に倉庫二棟(a、bとする)を所有していたのであるが、同人はその間右宅地上にあるa倉庫を被上告人B2の父Dに賃貸していた。ところが、右倉庫二棟は、いずれも、昭和二〇年六月二〇日戦災のため焼失した。上告人は、その後右宅地二筆を訴外Eから買受け(昭和二一年四月一五日所有権取得の登記を了す)、Eと被上告人B1との間の本件宅地に対する賃貸借関係を承継して賃貸人となつた。一方a倉庫の賃借人であつたDは罹災都市借地借家臨時処理法の規定に基いて、被上告人B1に対し右a倉庫の敷地の借地権譲渡の申出を為し、同被上告人の承諾を得て右借地権を取得したのである。しかるに、右Dは昭和二三年三月頃被上告人B2の名義を借りて本件宅地上に建坪約二〇坪の建物を建築したのであるが、その敷地の一部は右a倉庫焼跡に跨り、これに接続する西側の部分の上に建設せられた。以上は、原判決が確定した事実関係である。
すなわち、Dは、罹災都市借地借家臨時処理法によつて被上告人B1から譲渡を受けて自己が借地権を有するa倉庫の焼跡の敷地に右の建物を建設すれば問題はなかつたのであるが、右敷地にも跨るのであるが、自己が借地権を有せず、被上告人B1が上告人から賃借している宅地の上に右建物を建設したというのである。
そうしてDが右土地を使用するに至つた関係については原判決は、被上告人B1とDと「両者合意の上で」同被上告人が右Dに対し賃貸借倉庫の焼跡に代えてその接続地の使用を許したものであると認定しているのである。同被上告人が自己の借地の使用をDに許した関係を原判決が転貸借と見たものか借地権の譲渡と見たものかは原判文上明らかでないのであるが(記録にあらわれた証拠上は、賃貸借関係のごとく見える。証人D証言《記録一三二丁》参照)。いずれにしても賃貸人たる上告人の承諾を得ないで第三者との間に原判決認定のような使用関係を生じたときは賃貸人は民法六一二条の規定にもとづいて被上告人B1に対する賃貸借を解除する権利を取得することは疑のないところである。
原判決は右の関係を生じた事実を認めながら「これがため事実上賃貸人たる上告人に対し聊かでも不利益を与える虞のあることは、全然予想し得ない状況であつたことを認めるに十分である」と判示しているけれども、賃貸人の承諾を得ないで恣にその借地上に賃貸人と何ら信頼関係のない第三者をして、多年に亘る土地の使用を必然とする建物を建設せしめるという事実関係は、それ自体賃貸人に対する甚しい背信行為であつて、もとより賃貸人に対して不利益を与えるおそれあるものといわなければならない。民法六一二条が右のごとき事実関係に基き賃貸人に賃貸借解除の権利を与えるはこの趣旨に出でたものであり、原判決が右の場合聊かも賃貸人に不利益を与える虞れなしとすることは原判決の独断である。その採用にかゝる証拠によるもかかる事情は認められない。従つて、原判決が、右の場合「社会常識上、上告人においても当然異存なかるべしと考えられる場合である」とすることもその盲断である。
たゞ本件において、事情として、考慮すべきは、被上告人B1がDをして本件建物をもとの賃借倉庫の焼跡に建設せしめないでその西隣に建てしめたのは「右倉庫敷地の坪数範囲内で被上告人B1の同一借地上ならばこれを他の個所に建築するも何等差支ないものと信じ」てしたのであると原判決が認定していることである。要するに、罹災都市借地借家臨時処理法の不知というか、同法により譲渡せられた借地権の範囲に関する錯誤というかに基いてかゝる事態を惹起したものであることが想像せられる。従つて借地人たる被上告人B1において、故らに賃貸人の信頼を裏切る悪意をもつてしたのでないことは了知せられるのである。であるから、同人において遅滞なく右の誤りを是正し、Dと協議の上右建物を旧倉庫の焼跡に移転するの措置を講じたならば、万事はそれで解決するのである。しかるに、本件記録の全体を通じても被上告人B1においてかゝる誠意ある措置に出でたことはこれをうかがうことはできない。(本件建物について工事禁止の仮処分がなされているけれども賃貸人側との協議を以つてすれば、いか様にも適当に措置し得るものと考へられる)同人においてかかる措置に出でたにかかわらず、上告人側において一旦の違反を理由としてあくまでも被上告人B1に対する賃貸借を解除せんとするならばそれはおそらく権利濫用の問題を生ずるであらう。
原判決としては当事者の主張ある場合には、かかる事情関係を審理確定の上、上告人の解除権の行使を権利の濫用として排斥するならば格別、原判決が本件事態を以て民法六一二条所定の場合に該らないものとして上告人の解除権の発生を否定することは結局、同条の解釈を誤つた違法あるものと云うの外はなくこの点において上告は理由あり、原判決は破棄を免れない。
霜山裁判官の意見は左のとおりである。
私の意見は藤田裁判官の意見と大体同一であるが次のとおり補足する。
訴外Dにおいて自己の借地権の範囲内に本件建物を建築しないで被上告人B1の借地上に建築(建物の一部はDの借地にも跨る)し、被上告人B1の借地を使用するに至つたのは右両者の合意によるものであることは原判決の確定した事実である、被上告人B1は自己の借地をDに対し建物建築のために使用することを許したのであるからその関係は転貸か借地権の譲受かいずれかに帰するのであつて、いずれにしても賃貸人たる上告人の承諾を得なかつた場合には上告人は被上告人B1に対し賃貸借の解除をすることができるのである。
もとより民法六一二条が賃借権の譲渡、転貸を禁止し、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで第三者をして賃借物の使用収益をさせた場合に賃貸人に契約の解除権を与えているのは、賃貸借は継続的契約関係で当事者間の信頼関係を基調とするものであるからであつて民法は賃貸人の承諾を得ない賃借権の譲渡、転貸それ自体をもつて賃借人の背信的行為とみて規定をしているのである。それゆえ賃貸人の承諾を得ない賃借権の譲渡、転貸のうちに背信的行為になるものと背信的行為にならないものとを区別し、背信的行為になるものにのみ民法六一二条が適用され、背信的行為にならないものには右規定の適用がないという趣旨で立法されたものでないことは疑を容れないところである。
原判決は被上告人B1がDに係争土地の使用を許した事情を認定してB1の行為を以て背信的行為でないと判定している。ところでその事情なるものが果してB1の背信的行為を否定するに足るものであろうか。原判決の認定した事情の一は被上告人B1がDに本件土地の使用を許したのは「右倉庫敷地の坪数範囲内で被上告人B1の同一借地上ならばこれを他の個所に建築するも何等差支ないものと信じ両者合意の上で為したもの」であるというのである。ところでDの借地は右倉庫敷地の部分であり被上告人B1の借地はこれに隣接する宅地であり全く別個の借地であることは原判決の確定した事実であるからDはその借地上に建物を建築すべきことは当然の事理である。従つて右倉庫敷地の坪数範囲内でB1の借地にDの建物を建てても差支ないと信じたというが如きは全く法の不知か、もしくは誤解に基く事理に外れた考え方で採るに足らない事情である。かかる考え方で被上告人B1がDに本件土地の使用を許したとすれば悪意はなくても少くとも重大なる過失によつて賃貸人たる上告人の信頼を裏切つたものといわなければならないから右の事情を以てB1の背信的行為でないとすることは失当である。
次に原判決の認定した事情の他の一は「これが為め事実上賃貸人たる上告人に対し聊かでも不利益を与える虞のあることは全然予想し得ない状況であつたことを認めるに十分である」というのである。しかし本件賃貸契約には無断転貸の場合の失効約款があることは原判決の確定しているところで、それによつてみても上告人は被上告人B1を信頼してB1以外の第三者の使用を禁止しているのである。しかるにB1はDに対し本件土地の使用を許ししかも建物を建築させるというのであるから明らかに賃貸人たる上告人に対して不利益を与える虞あるものである。原判決が「これにより毫も上告人に損害を被らしめることなく従つて社会常識上上告人においても当然異存なかるべしと考えられる場合である」と判示しているのは驚くベき暴断であり社会常識上は上告人において当然異存あるべしと考えられる場合である。
なお原判決は「これひつ竟右Dの譲り受けた借地権の範囲に関する問題で関係当事者間において容易に是正し得るところであるから」と判示してB1の行為を以て背信的行為でないと説明しているのである。しかし本件は被上告人B1がDに対し賃借倉庫の焼跡(即ちDの借地)に代えてその接続地たる自己の借地の使用を許した事の当否を問題としているのであつてDの譲り受けた借地権の範囲に関する問題ではない。Dの譲り受けた借地権の範囲が右貸借倉庫の焼跡であることは原判決の確定した事実で、借地権の範囲については何等の問題はないのである。又右原判決は関係当事者間において容易に是正し得るところであるというけれども被上告人B1の借地上にDが建物を建築した本件のような場合には賃貸人たる上告人の承諾を得なければ問題を解決することができないのであるから関係当事者間において容易に是正し得るものではない。また被上告人B1がDと協議して本件建物を倉庫の焼跡に移転する措置が遅滞なくとられていれば問題は解決できたかも知れないが、B1はかかる措置をとらなかつたので本訴となつたものと認められるのであるから関係当事者間において容易に是正し得るところであるとはいえないのである。
以上要するに原判決がB1の行為を以て背信的行為でないと判定した事情なるものは悉く背信的行為を否定する資料となるものでないに拘らず原判決がB1の行為を以て背信的行為でないとして民法六一二条の適用を拒否したことは同条の解釈を誤つた違法あるものというべく上告論旨第一点は理由があり原判決は破棄を免れない。
谷村裁判官の補足意見は、次のとおりである。
霜山、藤田両裁判官の少数意見に対し、私は、次のとおり多数意見を補足する。
民法六一二条は、賃貸借が当事者の個人的信頼を基礎とする継続的法律関係であることにかんがみ、賃借人が賃貸人の承諾なく賃借権の譲渡又は転貸をなしたときは、賃貸借関係を継続するに堪えない背信的行為があつたものとして、賃貸人において一方的に賃貸借を解除することを得るものとし、以て賃貸人の利益保護を図る趣旨に出でた規定であることは、両裁判官も是認するところである。ただ霜山裁判官は、同条は賃貸人の承諾を得ない賃借権の譲渡又は転貸それ自体を背信的行為となすものであつて、それらの行為を背信的行為に当る場合と然らざる場合とに分け、同条適用の有無を区別するのは不当だ、と論ずる。しかしながら、賃借人が賃貸人の承諾なく賃借権を譲渡し又は転貸する如きは、通常の場合賃貸人をして賃貸借を解除せしめるに足る背信的行為と認むベきことは当然であるが、およそ社会の事象は複雑であるから賃借人が賃貸人の承諾なく賃借権を譲渡し又は転貸した場合であつても、何等か特段の事情があるため、必ずしもこれを右の如き程度における背信的行為とはなすに足らず、むしろ賃借人の当該行為を理由として賃貸人に解除を認めることは、賃貸人の正当な利益保護の範囲を超え、かえつて当事者間に正義衡平の観念と背馳する結果を招来する場合も存し得ることは、何人も否定し得ないところであろう。然らば民法六一二条は、賃借人の背信的行為に対し賃貸人の利益を保護せんとする前記立法趣旨そのものの当然の帰結として、背信的行為と認めるに足らない特段の事情ある場合に関しては、同条の適用が排除されるものと解せざるを得ないのであつて、かかる区別を不当とする霜山裁判官の前記見解には、とうてい賛同することはできない。
次に両裁判官は、原審が認定した被上告人B1の行為は、上告人に対する甚しい背信的行為であるとなし、その理由として、藤田裁判官は、「賃貸人の承諾を得ないで恣にその借地上に賃貸人と何ら信頼関係のない第三者をして多年に亘る土地の使用を必然とする建物を建設せしめるという事実関係は、それ自体賃貸人に対する甚しい背信的行為である」と説明する。しかしながら、この点につき原審の認定した事実関係は本判決理由の冒頭に明な通りであつて、被上告人B1が本件宅地(総面積二〇一坪)の係争部分(以下乙地という)にDをして係争建物(建坪約二〇坪)を建設せしめたのは、Dが古宅地内の乙地に隣接する部分(以上甲地という)にかつて存在したB1所有倉庫(建坪四七坪五合)の戦災による焼失当時の賃借人として、罹災土地借地借家臨時処理法三条の規定に基き適法に賃借権譲渡の申出をしたため、B1は法律上の義務としてこれを承諾したことによるのであつて、右譲渡につき賃貸人たる上告人の承諾は全然必要としなかつたものである(同法四条参照)。もつとも、右申出に基き法律上B1がDに賃借権を譲渡すべき義務を負うのは、前記甲地に関してであつて乙地に関してではないが、それにもかかわらずB1が乙地に係争建物の建設を許したのは、同一借地上ならば甲地の坪数の範囲内では甲地以外の部分でも差支がないものと誤信したからに外ならないことは、原判決の確定したところである。然らばB1の右行為は、少くともこれを背信的行為と認むべきか否かの判断に関する限りにおいては、「賃貸人の承諾を得ないで恣に」という如き表現によつて通常印象づけられるところとは、甚しく異つた事情の下になされたのであることを見逃すべきではない。またDは、前記賃借権譲渡の申出により、少くとも甲地については法律上当然に上告人に対し賃借人たる地位に立ち得べき者であつたのであるから、同人を以て単純に「何ら信頼関係のない第三者」となすことも甚しく当らないと考える。もしまた、甲地についてなら信頼関係は問題にならないとしても、乙地についてはこれを問題にすべきだと論ずるのならば、それは余りにも形式論に過ぎ、とうてい世人をしてその合理性を納得せしめるに足らないであろう。
以上の外、B1の行為を背信的行為ではないとした原判決の説明の一部に対する両裁判官の非難は、たとい当らずとはしないとしても、むしろ枝葉であり、本件の結論を左右するには足らないと考える。
次に、藤田裁判官は、被上告人B1がもし自己の誤りを遅滞なく是正し、Dと協議の上係争建物を乙地から甲地に移転せしめたにかかわらず、上告人がなおかつ契約を解除せんとするものならば、権利濫用の問題を生ずる余地もあり得るけれども、B1はかかる誠意ある措置をとらなかつたのであるから、上告人の解除権の行使は適法である、と論ずるが、右は全く本件紛争の実情を無視した議論に過ぎないことを明にしておきたい。すなわち、記録によれば、上告人は本件宅地を戦災による焼跡のまま前所有者E某から昭和二一年二月中に買い受け、所有権を取得したものであるが、その一部たる前記乙地上に係争建物の建築が始められたのを知るや、時を移さず被上告人等を相手方として工事及び現場立入の禁止等を内容とする仮処分命令を申請し、その命令を得てこれを執行し、続いて本案訴訟として本訴を提起したのである。しかも、当初は、請求原因として被上告人両名を全くの無権利者であると主張し、被上告人B2はもとよりB1の借地権をも頭から否定したのであつたが、第一審において敗訴するや第二審に至り始めて、B1が前所有者Eから適法に本件宅地を賃借し上告人においてその賃貸人たる地位を承継した事実を認めた上、請求原因を変更し、無断転貸禁止の特約違反及び民法六一二条を理由として被上告人両名に対する本訴明渡請求を維持し来つたのである。右の次第であるから、B1が「遅滞なく右の誤りを是正し、Dと協議の上右建物を旧倉庫の焼跡に移転するの措置を講」ずることは、法律上不能(仮処分中)であつたばかりでなく、たとい移転すべき旨を上告人に申し出でて諒恕を乞うたところで、上告人がたやすくこれに応ずるであろうことなどはとうてい期待し得ない情況にあつたものと認めるの外はないのである。然らば、藤田裁判官の前記意見は、むしろ難きを被上告人等に求めて、上告人の不当な主張を容認せんとする誤りを犯すに帰するものと評せざるを得ない。
最後に一言附加すれば、Dはもとより乙地上に建物を建設すべき正当な権原を有するものではないから、上告人は同人に対しその収去を求め得べきこともちろんであると私は解する。ただ以上詳細説明した事情の下におけるB1の本件所為は、未だ上告人のため民法六一二条の解除権を発生せしめるには足らないとなすものに外ならないのである。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官    霜   山   精   一
裁判官    栗   山       茂
裁判官    小   谷   勝   重
裁判官    藤   田   八   郎
裁判官    谷   村   唯 一 郎

3 平成20年度(問題46)条文型

(問題文)
AはBに対して、自己がCに対して有していた300万円の貸金債権を譲渡した。この場合、債権譲渡の合意自体はA・B間で自由に行うことができるが、債権譲渡の合意に基づいて直ちに譲受人Bが債務者Cに対して支払いを求めることはできない。では、その理由について、「なぜならば、民法の規定によれば、指名債権の譲渡は、」に続けて、40字程度で記述しなさい。

なぜならば、民法の規定によれば、指名債権の譲渡は、

(当時の正解例)
【例1】譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者に対抗できないからである。(44字)
【例2】譲渡人の債務者への通知又は債務者の承諾がなければ、債務者その他の第三者に対抗できないから。(45字)

(まるや解説:標準)
新旧対照表を見ていただくと分かるのですが、試験当時は、条文に「指名債権の譲渡は」と書かれていたので、そこから引き続き書けよという意味だったのでしょう。

(なので、単純に当てはめると)
指名債権の譲渡は、
譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。(51字)

ちょっと長いので、縮めます。なお、法文上は、「名詞+できる(できない)」と書いてはいけない(そんな動詞(正しい日本語)はない)ので、この条文も、「対抗できない」ではなく、「対抗することができない」と書かれているのですが、解答上は、やむを得ないので、「対抗できない」で縮めます。

(やむなしの短縮)
譲渡人が債務者に通知し、又は債務者が承諾しなければ、債務者その他の第三者に対抗できないから(45字)

(令和4年5月1日) (平成20年4月1日)
○民法(明治二十九年四月二十七日号外法律第八十九号)(債権の譲渡の対抗要件)
第四百六十七条 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
(指名債権の譲渡の対抗要件)
第四百六十七条 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。

それでは、本日は、この辺りとさせていただきます。
今後とも、家内安全を第一に、無理のない範囲でお取組ください。

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