行政書士試験記述式過去問分析(令和4年度)

行政書士

(本日のコンテンツ)
1 令和4年度(問題44)条文型
2 令和4年度(問題45)判例型
3 令和4年度(問題46)判例型

皆様、おはようございます。
遅くなりましたが、令和4年度(記述式)の過去問分析です。

1 令和4年度(問題44)条文型

(問題文)
問題44 開発事業者であるAは、建築基準法に基づき、B市建築主事から建築確認を受けて、マンションの建築工事を行い、工事完成後、Aは当該マンションの建物につき、検査の上、検査済証の交付を受けた。これに対して、当該マンションの隣地に居住するXらは、当該マンションの建築計画は建築基準法令に適合せず、建築確認は違法であり、当該マンションも、そのような建築計画に沿って建てられたものであるから違法であって、当該マンションの建物に火災その他の災害が発生した場合、建物が倒壊、炎上することにより、Xらの身体の安全や家屋に甚大な被害が生ずるおそれがあるとして、建築基準法に基づき違反建築物の是正命令を発出するよう、特定行政庁であるB市長に申し入れた。しかしながら、B市長は、当該建築確認および当該マンションの建物に違法な点はないとして、これを拒否することとし、その旨を通知した。このようなB市長の対応を受け、Xらは、行政事件訴訟法の定める抗告訴訟を提起することにした。この場合において、①誰を被告として、②前記のような被害を受けるおそれがあることにつき、同法の定める訴訟要件として、当該是正命令がなされないことにより、どのような影響を生ずるおそれがあるものと主張し(同法の条文の表現を踏まえて記すこと。)、③どのような訴訟を起こすことが適切か。40字程度で記述しなさい。
(参照条文)
建築基準法
(違反建築物に対する措置)
第9条 特定行政庁は、建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地については、当該建築物の建築主、当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の下請人を含む。)若しくは現場管理者又は当該建築物若しくは建築物の敷地の所有者、管理者若しくは占有者に対して、当該工事の施工の停止を命じ、又は、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる。

(センター解答)
①B市を被告として②重大な損害が生じるおそれがあると主張し、③是正命令の義務付け訴訟を提起する。

※ 丸数字及び赤字は、理解を助けるため、まるやが付したものです。

(まるや解説:標準)
「当該マンションの建物に火災その他の災害が発生した場合、建物が倒壊、炎上することにより、Xらの身体の安全や家屋に甚大な被害が生ずるおそれがある」

ハァ、被害妄想狂ですか?

と言いたくなるような設定ですが、作問者の書かせたい解答が「非申請型義務付け訴訟」であることは、直ぐに分かるでしょう。ちなみに、本当にそんな危険なマンションだったら、義務付け訴訟と同時に、当該マンションのデベロッパーに対して、直接、民事訴訟をしますよ。

なお、「B市建築主事から建築確認を受けて」とあることから分かりますが、B市は、特定行政庁です。

【行政事件訴訟法】
(義務付けの訴えの要件等)
第三十七条の二 第三条第六項第一号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。
2~5 略

2 令和4年度(問題45)判例型

(問題文)
問題45 Aが所有する甲不動産について、Aの配偶者であるBが、Aから何ら代理権を与えられていないにもかかわらず、Aの代理人と称して甲不動産をCに売却する旨の本件売買契約を締結した後、Bが死亡してAが単独で相続するに至った。CがAに対して、売主として本件売買契約を履行するよう求めた場合に、Aは、これを拒みたいと考えているが、認められるか。民法の規定および判例に照らし、その許否につき理由を付して40字程度で記述しなさい。

※ 赤字は、理解を助けるため、まるやが付したものです。

(センター解答)
無権代理人を相続した本人が無権代理行為の追認を拒絶しても信義に反しないため、認められる。

(まるや解説:標準)
こっちも「そんな旦那(嫁)いらんわ!」というような設定ですが、作問者の書かせたい解答が「本人の無権代理人相続」という典型論点であることは、直ぐに分かるでしょう。このような場合、本人の中に、本人と無権代理人の地位が併存しているように考えるのが判例です。

なお、この問題では、民法第761条に直接の出番はありません。土地の売買のような日常家事債務とは質的に異なるものは、本条による代理権の射程外なので、無権代理になるよ、という前提問題があるだけです。

ちなみに、無権代理人を相続した以上、履行は免れても損害賠償請求は免れませんよ。

【民法】
(無権代理人の責任)
第百十七条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。

(最判昭和37年4月20日)本人が無権代理人の家督を相続した場合、被相続人の無権代理行為は、右相続により当然には有効となるものではない。

3 令和4年度(問題46)条文型

(問題文)
問題46 Aは、工場を建設するために、Bから、Bが所有する甲土地(更地)を、賃貸借契約締結の日から賃借期間30年と定めて賃借した。ただし、甲土地の賃借権の登記は、現在に至るまでされていない。ところが、甲土地がBからAに引き渡される前に、甲土地に何らの権利も有しないCが、AおよびBに無断で、甲土地に塀を設置したため、Aは、甲土地に立ち入って工場の建設工事を開始することができなくなった。そこで、Aは、Bに対応を求めたが、Bは何らの対応もしないまま現在に至っている。Aが甲土地に工場の建設工事を開始するために、Aは、Cに対し、どのような請求をすることができるか。民法の規定および判例に照らし、40字程度で記述しなさい。
(下書用)
Aは、Cに対し、
(センター解答:正解1)
Bの所有権に基づく妨害排除請求権を代位して、塀の撤去及び損害賠償を請求することができる。
(センター解答:正解2)
Bの所有権に基づく妨害排除請求権を代位して、塀の撤去を請求することができる。

※ 赤字は、理解を助けるため、まるやが付したものです。

(まるや解説:標準)
これも本来であれば、賃借権を登記して、Cを叩き出す(民法第605条を参照してください。)が普通なのですが、こういうときは、得てしてBとCがグルなので、賃貸借契約を解除してBに損害賠償請求が関の山でしょうか。

と、それはそれとして、問題を解かなくてはいけません。

Bの協力がない状態で「Cに対して」が、お題なので、大判昭4年12月16日を元に、解答例2を解答するのでしょう。(これで満点のはずなので、ここで一旦終わり)

解答が出ているので蛇足ですが、センターの正解1は、AのBに対する賃貸借契約に基づく①損害賠償債権(賃貸借が実施できなかったために生じる損害賠償債権)を被保全債権にしてBのCに対する不法行為に基づく②損害賠償債権を代位することができるという理屈なんでしょうか?
でも、これだと「Bの所有権に基づく妨害排除請求権を代位して」につながらないから、端的に言うと、センターまたやらかしたんでしょうねぇ…

なお、TACの過去問題集に、この点についての解説はなく、それどころかAのCに対する不法行為に基づく直接請求に言及しています。(直接だと代位してにはつながらないから解答1の解説にはならないですね。)また、伊藤塾の過去問題集でも、正解1の損害賠償の部分には「だんまり」を決め込んでいて、正解1及び正解2ともに、妨害排除請求権ではなく、明渡請求権の代位でも正解ではないでしょうかとか、違う話でお茶を濁しています。

まあ、普通の弁護士であれば、請求の趣旨に「被告は、原告に対し、塀を収去し、甲土地を明け渡せ。」と書くでしょうから、伊藤塾としては、所有権に基づく返還請求権としての明渡請求を書いた人も〇にしてくださいよ、という主張なんでしょう。一方、何を以って損害賠償まで代位できるかは、結構、難しい割りに、正解1があったとて単に正解者(幸せな人)が増えるだけで受験生に実害はないから、伊藤塾も無視することにしたんでしょうか?

実際の理由は分かりませんが…

【民法】
(債権者代位権の要件)
第四百二十三条 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
3 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。
(不動産賃貸借の対抗力)
第六百五条 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

(大判昭4年12月16日)賃貸借の目的である土地を第三者が不法に占有する場合に、地主が右第三者に対し所有権に基づく妨害排除請求権を行使しないときは、借地人において賃借権に基づき債務者である地主に代位して、右不法占有者に対し、借地の明渡請求することができるものと解するのを相当とする。

それでは、今後とも、家内安全を第一に、無理のない範囲でお取組みください。

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