(本日のコンテンツ)
1 平成30年度(問題44)条文型
2 平成30年度(問題45)条文型
3 平成30年度(問題46)条文型
皆様、おはようございます。
今回は、全て条文型で、サクサク進むため、いつも以上に丁寧な当てはめを行っています。分かりきっているよと言う方は、この辺りは、華麗にスルーして読み進めてください。
1 平成30年度(問題44)条文型
(問題文)
Xは、A県B市内において、農地を所有し、その土地において農業を営んできた。しかし、高齢のため農作業が困難となり、後継者もいないため、農地を太陽光発電施設として利用することを決めた。そのために必要な農地法4条1項所定のA県知事による農地転用許可を得るため、その経由機関とされているB市農業委員会の担当者と相談したところ、「B市内においては、太陽光発電のための農地転用は認められない。」として、申請用紙の交付を拒否された。そこで、Xは、インターネットから入手した申請用紙に必要事項を記入してA県知事宛ての農地転用許可の申請書を作成し、必要な添付書類とともにB市農業委員会に郵送した。ところが、これらの書類は、「この申請書は受理できません。」とするB市農業委員会の担当者名の通知を添えて返送されてきた。この場合、農地転用許可を得るため、Xは、①いかなる被告に対し、②どのような訴訟を提起すべきか。40 字程度で記述しなさい。
(参照条文)
農地法
(農地の転用の制限)
第4条 農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(中略)の許可を受けなければならない。(以下略)
2 前項の許可を受けようとする者は、農林水産省令で定めるところにより、農林水産省令で定める事項を記載した申請書を、農業委員会を経由して、都道府県知事等に提出しなければならない。
3 農業委員会は、前項の規定により申請書の提出があったときは、農林水産省令で定める期間内に、当該申請書に意見を付して、都道府県知事等に送付しなければならない。
(センター解答)
①A県を被告として、②不作為の違法確認の訴えと農地転用許可の義務付けの訴えを併合提起する。(43字)
※ 丸数字及び赤字は、理解を助けるため、まるやが付したものです。
(まるや解説:標準)
仮に、Xさんがあなたのところに、本件相談に来たとします。Xさんの目的は、農地転用許可を得ることなので、行政事件訴訟法(昭和三十七年法律第百三十九号。以下この記事において「行訴法」という。)第3条第6項第2号の義務付けの訴え、いわゆる申請型義務付け訴訟(農転許可をしろ!)を提起するよう、アドバイスをすることになります。
そして、この義務付けの訴えには、行訴法第37条の3第3項第1号の不作為の違法確認の訴えを併合提起する必要があります、と申し添えます。
で、ここまでで、②の部分の回答は可能です。
○行政事件訴訟法(昭和三十七年法律第百三十九号) (抗告訴訟) 第三条 略 2~4 略 5 この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。 6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。 一 略 二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。 7 略 第三十七条の三 第三条第六項第二号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができる。 一 当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないこと。 二 略 2 略 3 第一項の義務付けの訴えを提起するときは、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない。この場合において、当該各号に定める訴えに係る訴訟の管轄について他の法律に特別の定めがあるときは、当該義務付けの訴えに係る訴訟の管轄は、第三十八条第一項において準用する第十二条の規定にかかわらず、その定めに従う。 一 第一項第一号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴え 二 略 4~7 略 |
次に、じゃあ誰を訴えるのかというと、Xさんの目的は、農地転用許可を得ることなので、当該許可を行うことのできる者であるA県知事が属する団体であるA県が被告となります。
「あれ、でも時代遅れの不受理をやらかしているのは、B市農業委員会の人で、A県の人じゃないじゃん。併合提起する不作為の違法確認の訴えの被告は、B市じゃね。」と思うかもしれません。
落ち着いて問題文を見てみましょう。参照条文として、農地法第4条が付いています。
付いている以上、必ず、解答に必要なはずです。
で、同条第2項を読むと、Xさんは、B市農業委員会を経由してA県知事に申請書を提出したことが分かります。(ちょっと「等」が気持ち悪いですが、これは、都道府県ではなく、政令市の長等に提出する場合があるからです。参照条文を付けているのだから、同条第1項を略さないでほしいものです。)
ですから、不作為の違法確認の訴えの被告もA県となり、①は、A県のみとなります。(A県がB市農業委員会をきちんと看ていないだけということ。)あと、準用というのは、必要な変更を加えて適用するということですよ。(第11条を変更して適用)念のため
○行訴法 (取消訴訟に関する規定の準用) 第三十八条 第十一条から第十三条まで、第十六条から第十九条まで、第二十一条から第二十三条まで、第二十四条、第三十三条及び第三十五条の規定は、取消訴訟以外の抗告訴訟について準用する。(以下略) (被告適格等) 第十一条 処分又は裁決をした行政庁(処分又は裁決があつた後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁。以下同じ。)が国又は公共団体に所属する場合には、取消訴訟は、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める者を被告として提起しなければならない。 一 処分の取消しの訴え 当該処分をした行政庁の所属する国又は公共団体 二 略 2~6 略 ○農地法(昭和二十七年法律第二百二十九号) (農地の転用の制限) 第四条 農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(農地又は採草放牧地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に関する施策の実施状況を考慮して農林水産大臣が指定する市町村(以下「指定市町村」という。)の区域内にあつては、指定市町村の長。以下「都道府県知事等」という。)の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。(以下略) |
このように条文だけで解ける問題なのですが、本件類似の判例があるので、併せて御紹介します。
(東京高判平20.3.26)
主文 1 原判決中,予備的請求に係る部分を取り消す。 2 控訴人が平成18年7月3日付けでした農地法5条に基づく農地転用許可申請について,処分行政庁が相当の期間内に何らの処分をしないことが違法であることを確認する。 3 控訴人のその余の控訴を棄却する。 4 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを2分し,その1を控訴人の,その余を被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2(1) 主位的請求 控訴人が平成18年7月3日付けでした農地法5条に基づく農地転用許可申請について,処分行政庁が春日部市農業委員会を通じて同月31日付けでその受理を拒否した処分を取り消す。 (2) 予備的請求 主文第2項と同旨 第2 事案の概要 1 本件は,農地法(以下「法」という。)5条,農地法施行令(以下「令」という。)1条の15第1項に基づき,原判決添付物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につき,春日部市農業委員会を経由して,処分行政庁に対し,農地転用許可申請(以下「本件申請」という。)をした控訴人が,春日部市農業委員会が,本件申請を受理しなかったため(以下,この行為を「本件受理拒否行為」という。),①主位的には,本件受理拒否行為は,処分行政庁である埼玉県知事による本件申請に対する拒否処分(却下処分)に当たると主張して,その取消しを求め,②予備的には,処分行政庁は,本件申請に対する応答義務を怠っていると主張して,処分行政庁の不作為の違法確認を求める事件である。 原判決は,処分行政庁による本件申請に対する処分は存在せず,また,本件申請に係る申請書が処分行政庁に送付されていない以上,処分行政庁には,本件申請に対する作為義務は生じないとして,控訴人の主位的請求及び予備的請求に係る訴えを,いずれも却下したため,これを不服とする控訴人が控訴をした。 2 事案の概要の詳細は,当審における当事者の主張を踏まえ,3項のとおり当事者の主張を補充するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」2ないし5に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決10頁5行目,13行目に「知事の処分」とあるのを,「知事の行為」とそれぞれ改め,原判決中,「埼玉県知事」とあるのを処分行政庁と読み替える。)。 3 当審における当事者の主張 (1) 控訴人 ア 本件受理拒否行為は,処分行政庁による本件申請に対する拒否処分に当たる。都道府県知事と市町村が設置する農業委員会とが全く別個の機関であり,行政組織法上の指揮命令関係がないことには異論はない。しかし,法及び令が,都道府県知事に農地転用許可の権限を認めつつ(法5条1項),申請者に対し,農地転用許可に関する何らの権限も有しない農業委員会を経由して同許可の申請書を提出することを義務付け(令1条の15第1項),農業委員会に都道府県知事への進達義務を課す一方で(同施行令1条の15第2項,1条の2第2項),農業委員会が農地法施行規則(以下「規則」という。)2条の3所定の期間内に都道府県知事に申請を進達しない場合には,農業委員会を経由しないで,都道府県知事に申請書を提出することができることのみを定め(令1条の15第2項,1条の2第3項),その場合に,直接都道府県知事に申請することを義務付けたり,申請の却下があったものとみなしたりする規定や,従前の申請の取扱いについての規定は全く存しないのである。これらの規定からみれば,農地転用許可手続に関する限りにおいては,農業委員会は,都道府県知事の一機構として位置付けられていると解するのが相当である。そして,都道府県知事は,自治事務の執行機関として,その担任事務である農地転用許可につき,条例,規則という形での指揮命令権を有しているのであるから(地方自治法14条,15条),都道府県知事と農業委員会との間に指揮命令関係が存しないということはできない。 なお,「農地等転用関係事務処理要領の制定について」(昭和46年4月26日46農地B500農地局長通知)においても,また,実務の運用においても,農地転用許可手続に関しては,農業委員会は都道府県知事の一機構として捉えられているということができ,このことからも,上記解釈が裏付けられる。 イ 都道府県知事は,申請書が経由機関である農業委員会から送付されていないことをもって,不作為の責めを免れることはできない。すなわち,法令に基づく申請がされれば,行政庁はこれに対する応答義務を負うのであって,行政手続法の解釈においても,許認可権を有する行政庁は,経由機関の処理が遅滞していることを知ったときは,遅滞なく申請書を送付させるなど必要な措置を執るべきものとされているのである。 そして,令1条の15第2項,1条の2第3項,規則2条の3によれば,農業委員会に申請書が提出された日の翌日から起算して40日を経過すれば,申請者は,直接都道府県知事に申請書を提出することが認められているが,同条項は,当初の申請が却下され,又は当初の申請をもって,直接都道府県知事に申請したものとみなすことを規定するものではなく,当初の申請を維持するかどうかは,申請者の任意であり,申請者がこれを維持する以上は,都道府県知事は,これに対する応答義務を免れることはできず,応答しない不作為の違法状態は継続する。 (2) 被控訴人 ア 地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律の制定に伴い,都道府県知事の市町村長に対する包括的指揮命令権を伴う機関委任事務は廃止され,その関与の態様は,法的拘束力のない勧告,指示にとどまることとなった。このような都道府県と市町村との関係の下において,市町村に設置される独立行政委員会である農業委員会を都道府県知事の一機構とみることはできない。 イ 農地転用許可に関する経由機関である農業委員会の申請の処理については,令1条の15第2項,1条の2第3項が,農業委員会が申請書を規則2条の3所定の期間内に都道府県知事に送付しなかったときは,申請者は,農業委員会を経由しないで,都道府県知事に申請書を提出することができると定めている。このように,令は,経由機関における申請の処理につい て,特別の定めを置くことによって申請者の保護を図っており,申請者は,この規定に基づき,経由機関の不作為についての救済を求めれば足りるものというべきであり,殊更,都道府県知事の不作為を問題にする必要はない。 第3 当裁判所の判断 当裁判所は,控訴人の主位的請求に係る訴えは,不適法であるから却下を免れないが,予備的請求は理由があるから認容すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 主位的請求に係る訴えについて (1) 令1条の15第1項は,法5条1項の許可を受けようとする者は,申請書を,農業委員会を経由して都道府県知事に提出しなければならない旨を定めており,農業委員会は申請書の提出先とされているのであるが,それ以上に,都道府県知事が,農業委員会に対し,上記許可に係る権限を委任し,又は嘱託したものと解すべき根拠はない。農業委員会が,法5条1項の許可の申請書の提出を受けながら,これを都道府県知事に進達せず,これを受理しないとの対応をした場合には,申請の当否に関する都道府県知事の審査は全く行われておらず,その判断権が行使されたとみる余地はないのであって,農業委員会の上記対応をもって,都道府県知事が,申請に対する拒否の処分をしたものと解することはできない。 したがって,本件受理拒否行為が,処分行政庁の本件申請に対する拒否処分(却下処分)に当たるとして,その取消しを求める主位的請求に係る訴えは,取消しの対象となる処分が存在せず,不適法として却下を免れない。 (2) この点につき,控訴人は,法5条1項の許可の手続に関しては,農業委員会は都道府県知事の一機構として位置付けられ,都道府県知事は,自治事務に当たる上記許可の執行機関として,農業委員会に対する指揮命令権を有しているから,本件受理拒否行為は,処分行政庁による本件申請に対する拒否処分に当たると主張するが,上記主張は,申請書の提出を受けた処分行政庁の補助機関が,処分権限がないにもかかわらず,独断で申請書を受理しないという対応をした場合は,処分行政庁によって申請に対する拒否処分がされたものと解すべきであると主張するに帰着し,独自の見解といわざるを得ず,これを採用することができない。 2 予備的請求について (1) 上記のとおり,法5条1項の許可に係る申請書の提出先は農業委員会とされているところ,農業委員会は,農業委員会等に関する法律に基づき設置された市町村の行政機関であって(農業委員会等に関する法律3条),地方自治法に基づき設置された都道府県の行政機関である都道府県知事からは独立した行政委員会である。このように,行政組織法上,処分行政庁からは独 立した行政機関を経由機関として,申請を受理する法制度の下においては,申請権を有する者が,経由機関に申請書を提出した場合には,これによって,処分行政庁の応答を得ようとする意思の表明があることは明らかであって,処分行政庁は,申請に対し,相当の期間内に応答する義務を負うことになると解すべきである。そして,経由機関を経由して申請書を提出すべきことが定められている場合にあっては,上記相当の期間は,経由機関から処分行政庁に申請書を進達等するために要する相当の期間及び処分行政庁が申請に対する処分をするために要する相当の期間を通じた期間をいうものと解され,こうした相当の期間を経過しても,申請に対する応答がされない場合には,処分行政庁は,申請に対する応答義務を怠るものとの評価を免れない。 これを本件についてみると,前記争いのない事実等によれば,控訴人は,平成18年7月3日,令1条の15第1項所定の経由機関である春日部市農業委員会に申請書を提出して,処分行政庁に対する本件申請を行ったところ,令1条の15第2項,1条の2第2項,規則2条の3によれば,農業委員会は,申請書の提出があった日の翌日から起算して40日以内に,当該申請書に意見を付して,都道府県知事に送付しなければならないものとされているにもかかわらず,春日部市農業委員会は,同月31日,控訴人に対し,本件申請を受理できない旨通知した(本件受理拒否行為)というのであって,春日部市農業委員会が,上記40日を経過しても,本件申請に係る申請書を処分行政庁に送付せず,したがって,処分行政庁は,本件申請に対し,今もって何らの応答もしていないことが明らかである。上記事実関係によれば,経由機関である春日部市農業委員会に本件申請がされた時点において,処分行政庁は,本件申請に対する応答義務を負うに至ったにもかかわらず,同農業委員会が令1条の2第2項所定の事務を行うのに要する相当の期間及び処分行政庁が本件申請に対する許否の応答をするのに要する相当の期間を経過しても,処分行政庁は,上記応答義務を怠っているものというほかはなく,その不作為に合理的な理由があることは何ら主張立証されていないから,処分行政庁が相当の期間を経過しても本件申請に対し,何らの処分もしないことは,違法というほかはない。 (2) 上記判断に対し,被控訴人は,春日部市農業委員会から処分行政庁に対する申請書の送付がされておらず,処分行政庁が申請書の内容を審査し,これに応答することができる状況にはないのであり,また,都道府県知事と農業委員会が別個独立の行政機関であり,都道府県知事の指揮監督権は農業委員会に及ばないことから,農業委員会が令1条の15第2項,1条の2第2項所定の進達義務を懈怠した場合には,令1条の15第2項,1条の2第3項に基づき,申請者は,直接都道府県知事に申請書を提出することができると定められていることからすると,申請者が,上記各規定に基づき,直接都道府県知事に申請書を提出して始めて,都道府県知事には申請に対する応答義務が生ずる旨主張し,この申請につき応答を得ることによって,控訴人の救済は図られる旨を主張する。しかし,令1条の15第2項,1条の2第2項に基づく農業委員会から都道府県知事に対する申請書の進達は,行政機関相互間の行為であって(最高裁判所平成6年(行ツ)第104号同8年10月8日第三小法廷判決参照),法,令の定めに従って,申請者が,経由機関に申請書を提出し,処分行政庁の応答を得ようとする意思を表明しているにもかかわらず,行政機関相互間の事務の処理が滞っていることを理由として,処分行政庁が,これに対する応答義務を負うことはないと解することはできない。農業委員会が,令1条の15第2項,1条の2第2項により,規則2条の3所定の期間内に当初提出された申請書を都道府県知事に対して進達しない場合には,申請者は,令1条の15第2項,1条の2第3項に基づき,直接都道府県知事に申請書を提出することが認められており,申請者が,改めて都道府県知事に申請書を提出し,別途申請を行った場合に,都道府県知事が,この申請に対し,応答義務を負うことはもとより明らかであるが,農業委員会が上記期間内に,当初提出された申請書を都道府県知事に進達しなかった場合に,当初の申請に対する都道府県知事の応答義務が消滅すると解すべき根拠はなく,この場合に,申請者が,直接都道府県知事に申請書を提出することが可能であるからといって,このことは,当初の申請がなお残っているにもかかわらず,処分行政庁による応答がされていないことについての,法的救済が否定される理由とはなり得ない。令1条の15第2項,1条の2第3項が,上記のように,直接都道府県知事に申請書を提出することをを認めているのは,行政不服審査,行政事件訴訟の手続による救済とは別に,新たに都道府県知事に申請書を提出することによって,簡明に申請に対する応答を得る途を開いたにすぎないものというべきである。 被控訴人の上記主張は,失当であり,採用の限りではない。 3 以上によれば,主位的請求に係る訴えは不適法として却下を免れないが,予備的請求は,理由があるからこれを認容すべきであって,原判決中,予備的請求に係る訴えを却下した部分は失当であるからこれを取り消し,予備的請求を認容し,その余の本件控訴は理由がないから,これを棄却する。 東京高等裁判所第5民事部 裁判長裁判官 小林克巳 裁判官 綿引万里子 裁判官 中村愼 |
ちなみに、この東京高裁の事例は、農地をパチンコ店の駐車場にしようとしていた事例で、太陽光パネルの設置ではありません。
それはさておき、皆様が、将来、行政書士として「農転」や「補助金(太陽光発電事業は、補助金を受けることができる場合があります。)」あるいは「開発許可(太陽光パネルは、電気工作物なので、原則、建築確認は不要ですが、大規模設置をするときは、当然、大規模な造成を伴い開発許可の対象になる場合があります。)」のお仕事をされるのであれば、太陽光事業というのは、中々、おいしい場合があります。合格後のため、一度でいいので、日本行政書士会連合会の報酬額統計は、眺めておいてください。
なお、この問題では、既に裁判で、弁護士の領域になってしまっているのですが、仮に、太陽光パネルの設置に伴う当初の相談を受けたときは、「こいつはおいしいぜ!」と思うのもいいのですが、環境ビジネスというやつは、高邁な理想の元、極めて献身的に取り組む人がいる半面、山師、詐欺師も満載なので、可能であれば、相談者が悪い事業者に引っかかっていないか、みてあげてはいかがでしょうか。
具体的には、休耕地に太陽光発電事業を提案しにきた事業者が持参した事業計画をみてあげましょう。合格後は、皆様も事業主になるのですから、関わってはいけない事業者かどうかぐらいは、一目で分かる程度の経営力は身に付けてください。(関わってはいけない事業者は、発電見込みを水増ししたり、本来、計上すべき経費を略するなど悪質です。)
本件のような農転相談を受けるとすれば、ある程度、田舎でしょうし、地域の人が騙されるのを見過ごすのも後味が悪いのではないでしょうか。
2 平成30年(問題45)条文型
(問題文)
30問題45 画家Aは、BからAの絵画(以下「本件絵画」といい、評価額は500 万円〜600万円であるとする。)を購入したい旨の申込みがあったため、500 万円で売却することにした。ところが、A・B間で同売買契約(本問では、「本件契約」とする。)を締結したときに、Bは、成年被後見人であったことが判明したため(成年後見人はCであり、その状況は現在も変わらない。)、Aは、本件契約が維持されるか否かについて懸念していたところ、Dから本件絵画を気に入っているため600万円ですぐにでも購入したい旨の申込みがあった。Aは、本件契約が維持されない場合には、本件絵画をDに売却したいと思っている。Aが本件絵画をDに売却する前提として、Aは、①誰に対し、1 か月以上の期間を定めて②どのような催告をし、その期間内に③どのような結果を得る必要があるか。なお、AおよびDは、制限行為能力者ではない。「Aは、」に続け、下線部分につき40 字程度で記述しなさい。記述に当たっては、「本件契約」を入れることとし、他方、「1 か月以上の期間を定めて」および「その期間内に」の記述は省略すること。
(センター解答)
①Cに対し②本件契約を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をし、③追認しない旨の確答を得る。(43字)
※ 丸数字及び赤字などは、理解を助けるため、まるやが付したものです。
(まるや解説:標準)
ここでもAさんから御相談があったものと考えてみましょう。
Aさんは、本件絵画を売りたいのですが、Bさんなら500万円、Dさんなら600万円で買ってくれそうです。
ところが、Bさんは、成年被後見人(民法第7条の後見開始の審判を受けた者)なので、民法第9条の規定により、本件絵画の購入の申し込みを取り消すことができます。
普通に考えれば、Aさんとしては、取り消しうるような不安定な状態を避け、値段の高いDさんに売りたいですよね。
民法は、こういった不安定な状況を除去することができるよう、第20条の催告を設けています。
なので、Aさんは、同条第2項の催告をすればよく、本件を同項に当てはめれば、次のようになります。
【当てはめ第一段階:民法第20条第2項に本件の登場人物等を当てはめていきます。】
制限行為能力者(Aさん)の相手方(Bさん)が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人(Cさん)、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告(=その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告)をした場合において、これらの者が同項の期間内(=一箇月以上の期間内)に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。(=その行為を追認したものとみなす。)
【当てはめ第二段階:枝葉の部分を取り去って、まとめます。】
Bさんが、行為能力者とならない間に、Cさんに対し、本件絵画の購入の申し込みについて、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をした場合において、Cさんが1箇月以内のの期間内に確答を発しないときも、その行為を追認したものとみなす。
Aさんは、Cさんに追認されてしまうと(追認とみなされてしまうと)、Bさんに500万円で売ることになります。当然、Dさんに600万円で買ってもらった方がいいですから、ここは、追認しない(取り消す)旨の確答を得る必要があるとして、次のような解答になるのではないでしょうか。
(現場合わせ)
①Cに対し、②本件契約を追認するかの確答を求める催告をし、③追認しない旨の確答を得る必要がある。(45字)(「確答すべき旨の催告」と書きたいですが、「必要がある」で締め括るために、このようにしています。)
○民法(明治二十九年法律第八十九号) (後見開始の審判) 第七条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。 (成年被後見人及び成年後見人) 第八条 後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。 (成年被後見人の法律行為) 第九条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。 (保佐人の同意を要する行為等) 第十三条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。 一~九 略 十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。 2~4 略 (制限行為能力者の相手方の催告権) 第二十条 制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。 2 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。 3・4 略 |
3 平成30年(問題46)条文型
(問題文)
甲自動車(以下「甲」という。)を所有するAは、別の新車を取得したため、友人であるBに対して甲を贈与する旨を口頭で約し、Bも喜んでこれに同意した。しかしながら、Aは、しばらくして後悔するようになり、Bとの間で締結した甲に関する贈与契約をなかったことにしたいと考えるに至った。甲の引渡しを求めているBに対し、Aは、民法の規定に従い、①どのような理由で、②どのような法的主張をすべきか。40 字程度で記述しなさい。なお、この贈与契約においては無効および取消しの原因は存在しないものとする。
(センター解答)
①書面によらない贈与であるため、履行が終了していないことを理由として②契約を撤回できる。
※ 丸数字及び赤字は、理解を助けるため、まるやが付したものです。
(書面によらない贈与の解除) 第五百五十条 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。 |
(まるや解説:標準)
非常に短い条文ですし、ここは一気に当てはめてみましょう。
【当てはめ第一段階:民法第550条に本件の登場人物等を当てはめていきます。】
書面によらない贈与(AとBの本件贈与契約)は、各当事者(AもBも)が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分(引き渡した部分)については、この限りでない。(解除できない。)
【当てはめ第二段階:枝葉の部分を取り去って、まとめます。】
書面によらない贈与は、履行の終わった部分を除いて、解除をすることができる。
Aさんは、贈与契約をなかったことにしたいと考えているので、主張をすべきで括ることとして、次のような解答になるのではないでしょうか。
(現場合わせ)
書面によらない贈与で、履行が終わっていないことを理由として契約解除の主張をすべきである。(44字)
本件に限っては、撤回でも解除でも、求める効果(贈与契約をなかったことにしたい)は生じますが、撤回(簡単に書くと将来に向けた取り消しで原状回復はない。)と解除(同様に簡単に書くと遡っての取り消しで原状回復もある。)は、異なる概念ですし、そもそも、民法第550条を根拠とするときは、同条に解除としか書いていないのですから、解除しかできません。センターの解答例は、非常に雑、かつ、不正確です。
さて、ちょっと怒モードに入りかけましたが、(伊藤塾やTACの過去問題集は、通常、センターの解答をそのまま載せますが、本問では、さりげなく、解除としています。大人ですね。)次回は、6回中3回終了と、ちょうど真ん中なので、温泉回(ヲ)お休みの回を入れさせていただき、次々回に令和元年度の解説を行いたいと思います。
(ヲタク語録)
温泉回とは視聴者サービス(テコ入れともいう)の回をいいます。次回は、そこまでのサービスはしませんが、息抜きの回にはする予定です。
それでは、皆様、今後とも、家内安全を第一に、無理のない範囲でお取り組みください。
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