行政書士試験記述式過去問分析(令和3年度)

行政書士

(本日のコンテンツ)
1 令和3年度(問題44)条文型
2 令和3年度(問題45)条文型
3 令和3年度(問題46)条文型

皆様、おはようございます。
本日は、自分が受験した年なので、第三問で、大激怒になっています。合格もしていたし、随分時間も経っていますが、今見ても許せませんね。(`Д´#

1 令和3年度(問題44)条文型

(問題文)
私立の大学であるA大学は、その設備、授業その他の事項について、法令の規定に違反しているとして、学校教育法15 条1項に基づき、文部科学大臣から必要な措置をとるべき旨の書面による勧告を受けた。しかしA大学は、指摘のような法令違反はないとの立場で、勧告に不服をもっている。この文部科学大臣の勧告は、行政手続法の定義に照らして①何に該当するか。また、それを前提に同法に基づき、②誰に対して、③どのような手段をとることができるか。40字程度で記述しなさい。なお、当該勧告に関しては、A大学について弁明その他意見陳述のための手続は規定されておらず、運用上もなされなかったものとする
(参照条文)
学校教育法
第15 条第1項 文部科学大臣は、公立又は私立の大学及び高等専門学校が、設備、授業その他の事項について、法令の規定に違反していると認めるときは、当該学校に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。(以下略)

※ 丸数字及び赤字などは、理解を助けるため、まるやが付したものです。

(センター解答)
①行政指導に該当し、②文部科学大臣に対し、③行政指導の中止を求めることができる。(37字)

(まるや解説:標準)
前条(第36条の2:令和元年度出題)と同時に新設された条文(平成27年4月1日施行)で、元年度の過去問演習の際に、チェックができていれば、いただき問題でした。(私は、見出し(行政指導の中止等の求め)しか覚えていませんでしたが、それでも助かりました。)

さて、問題文のような勧告は、行政手続法(平成五年法律第八十八号。以下「行手法」という。)第2条第6号の勧告なので、行手法では、行政指導になります。
後は、完全な条文問題なので、一気に当てはめましょう。

【当てはめ第一段階:本件の登場人物等を当てはめていきます。】
法令に違反する行為の是正を求める行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)の相手方(A大学)は、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと思料するときは、当該行政指導をした②行政機関(文部科学省)に対し、その旨を申し出て、③当該行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることができる。ただし、当該行政指導がその相手方について弁明その他意見陳述のための手続を経てされたものであるときは、この限りでない。

【当てはめ第二段階:枝葉の部分を取り去って、まとめます。なお、ただし書に該当しないことは、問題文中に示されています。】
A大学は、②文部科学省に対し、その旨を申し出て、③当該行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることができる。

【加工段階:①が行政指導なので、まとめます。】
行政指導に該当し、文部科学省に対し当該行政指導の中止その他必要な措置を求めることができる。(45字)

「えっ、誰にだし、文部科学大臣じゃないの?」と思うかもしれませんし、私も試験現場では、文部科学大臣と書きました。
しかし、国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第3条第2項を見てもらうと分かりますが、同項の国の行政機関は、省、委員会及び庁なので、行手法第2条第5号の行政機関とすると、②の答えは、文部科学省ですね。

とはいえ、講学上も、実務上も、大臣、知事、市町村長を行政機関としていますし、そもそもセンター解答が文部科学大臣なので、文部科学省にしなくても、減点はなかったと思います。逆に、文部科学省で減点された方がいれば、お気の毒としか言いようがありません。(いそうな気がするのが、この試験の怖いところです。)

なお、TAC及びコンデックス情報研究所(本番形式過去問題集「詳解行政書士過去5年問題集」の著作者。「行政書士試験の合理的な攻略法について」に追記しました。)の過去問題集では、何ら問題意識なく、「行政機関である文部科学大臣」としています。(伊藤塾の過去問題集は、本日時点では未発売)

(20240406追記)
伊藤塾の過去問題集では、「文部科学大臣」は、「文部科学省」としても正解と解することができるとの注意書きがなされています。

○行政手続法(平成五年法律第八十八号)
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一~四 略
五 行政機関 次に掲げる機関をいう。
イ 法律の規定に基づき内閣に置かれる機関若しくは内閣の所轄の下に置かれる機関、宮内庁、内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項若しくは第二項に規定する機関、国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する機関、会計検査院若しくはこれらに置かれる機関又はこれらの機関の職員であって法律上独立に権限を行使することを認められた職員
ロ 地方公共団体の機関(議会を除く。)
六 行政指導 行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。
七・八 略(行政指導の中止等の求め)
第三十六条の二 法令に違反する行為の是正を求める行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)の相手方は、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと思料するときは、当該行政指導をした行政機関に対し、その旨を申し出て、当該行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることができる。ただし、当該行政指導がその相手方について弁明その他意見陳述のための手続を経てされたものであるときは、この限りでない。
2・3 略○国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)
(行政機関の設置、廃止、任務及び所掌事務)
第三条 国の行政機関の組織は、この法律でこれを定めるものとする。
2 行政組織のため置かれる国の行政機関は、、委員会及び庁とし、その設置及び廃止は、別に法律の定めるところによる。
3 省は、内閣の統轄の下に第五条第一項の規定により各省大臣の分担管理する行政事務及び同条第二項の規定により当該大臣が掌理する行政事務をつかさどる機関として置かれるものとし、委員会及び庁は、省に、その外局として置かれるものとする。
4 第二項の国の行政機関として置かれるものは、別表第一にこれを掲げる。

2 令和3年度(問題45)条文型

(問題文)
Aは、Bに対して100 万円の売掛代金債権(以下「本件代金債権」といい、解答にあたっても、この語を用いて解答すること。)を有し、本件代金債権については、A・B間において、第三者への譲渡を禁止することが約されていた。しかし、Aは、緊急に資金が必要になったため、本件代金債権をCに譲渡し、Cから譲渡代金90万円を受領するとともに、同譲渡について、Bに通知し、同通知は、Bに到した。そこで、Cは、Bに対して、本件代金債権の履行期後に本件代金債権の履行を請求した。Bが本件代金債権に係る債務の履行を拒むことができるのは、どのような場合か。民法の規定に照らし、40字程度で記述しなさい。なお、BのAに対する弁済その他の本件代金債権に係る債務の消滅事由はなく、また、Bの本件代金債権に係る債務の供託はないものとする

※ 赤字などは、理解を助けるため、まるやが付したものです。

(センター解答)
Cが、本件代金債権譲渡禁止特約につき、知り、又は重大過失により知らなかった場合(40字)

(まるや解説:標準)
平成29年度の解説で申し上げましたが、当時、判例型であった問題45を条文型にリニューアルです。(当該判例法理が条文に盛り込まれました。令和2年4月1日施行)
過去問をしっかりやっておられた方は、ミサトさん(ヲ)の「サービス!サービス!」の声が聴こえていたかもしれません。
(ヲタク語録)
葛城ミサト(新世紀エヴァンゲリオンの登場人物(CV)三石琴乃)。テレビシリーズ(第一作目)の予告編で毎回最後に「サービス!サービス!」という決めゼリフ?を放っていた。

まあ、サービス問題なので、一気に当てはめていきましょう。(--;

【当てはめ第一段階:本件の登場人物等を当てはめていきます。】
当事者(AとBと)が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
この場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人(C)その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。

【当てはめ第二段階:枝葉の部分を取り去って、まとめます。】
AとBとが債権の譲渡を禁止する旨の意思表示をしたときには、その意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかったCに対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができる。

【加工段階:問いに合わせてまとめます。】
Cが、本件代金債権の譲渡を禁止する意思表示を知り、又は重大な過失により知らなかった場合(43字)
・センター解答の譲渡禁止特約は、講学上の概念なので、条文の文言どおりとしました。
・センター解答の重大過失は、そもそも重過失の誤植と思われますが、こちらも条文どおり重大な過失としました。(仮に、本試験で重過失と書いて(採点者が重大過失ではないとして)減点された方がおられたとすれば、以下略)

ここは驚くべきことに、TACもコンデックス情報研究所も、重大過失のままにしています。(「重大過失」なんて、書いてある法律があったら言ってみ、としか言いようがありません。文言上は「重大な過失」、講学上は「重過失」が正しい用法です。そっと大人の対応をするかどうか、とりあえず、伊藤塾を待ってみましょう。)

(2022年06月23日追記)
伊藤塾も重大過失としていました。本当に塾長が監修してるの?

というか、こんな解答がHPに公開されている時点で、センターは、全く品質管理ができていないとしかいいようがありません。

○民法(明治二十九年法律第八十九号)
(債権の譲渡性)
第四百六十六条 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
3 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる
4 略

3 令和3年度問題46(条文型)

(問題文)
Aが所有する甲家屋につき、Bが賃借人として居住していたところ、甲家屋の2階部分の外壁が突然崩落して、付近を通行していたCが負傷した。甲家屋の外壁の設置または管理に瑕疵があった場合、民法の規定に照らし、誰がCに対して損害賠償責任を負うことになるか。必要に応じて場合分けをしながら、40 字程度で記述しなさい。

(センター解答)
甲の占有者Bが責任を負い、Bが損害発生防止のために必要な注意をしたときは所有者Aが負う。(44字)

(まるや解説:諦め)
センター解答の理屈は、次のとおりです。(民法第717条に当てはめています。)

【当てはめ第一段階:本件の登場人物等を当てはめていきます。】
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵(甲家屋の外壁の設置又は管理に瑕疵)があることによって他人(C)に損害を生じたときは、その工作物(甲家屋)の占有者(B)は、被害者(C)に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者(B)が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者(A)がその損害を賠償しなければならない。

【当てはめ第二段階:枝葉の部分を取り去って、まとめます。】
甲家屋の外壁の設置又は管理に瑕疵があることによってCに損害を生じたときは、甲家屋の占有者Bは、Cに対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、Bが損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、Aがその損害を賠償しなければならない。

【加工段階:必要な注意で場合分けをしてまとめます。】
Bが責任を負う。ただし、Bが損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、Aが負う。(43字)

○民法(明治二十九年法律第八十九号)
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない
2 略
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

(まるや解説:マジレス)
もし、あなたが、Aさんの所有する甲家屋を借りて住んでいたとして、常識的に暮らしているだけで、何も悪いことはしていないのに、2階部分の外壁が突然崩落して、付近を通行していたCさんが負傷したとしますよね。その場合に、Aさんから、「民法第717条第1項の規定により、第一義的な責任は、甲家屋の占有者であるあなたにある。もっとも、あなたが、損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、私の責任となるので、あなたが損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたかどうか、証明してください。」と言われたとすれば。。。

ブチ切れませんか?

そもそも、常識的に暮らしているだけで、2階部分の外壁が突然崩落するなんて、建物の欠陥以外の何物でもないですよね。しかし、民法第717条第1項を単純に適用すると、第一義的な責任が賃借人という不合理な結論となります

確かに、建物の欠陥であることが証明できれば、民法第717条第3項の規定により、最終的には、建物工事の施工者等に対し、Cさんに損害を賠償した後で、その額を求償することはできますが、それもいい加減、ブチ切れそうです。

これは、賃借世帯が2千万もある我が国において、民法第717条を賃貸物件に単純に適用しようとするから生じる問題で、個人的には、法改正(例えば、借地借家法を改正して民法第717条の特則を創設するとともに、同法を改正して賃貸物件を同条の工作物から除外)が必要であると思っていますが、現行法令のままで、常識的な結論を導くため、気の利いた賃貸物件は、オーナーを所有者管理会社を占有者とするような法的構成をとっています。

これであれば、一義的な責任を負う占有者が、賃貸管理のプロである管理会社なので、非常識な結論ではないでしょう。

もっとも、全ての賃貸物件に管理会社がいるわけでもないので、民法第717条第1項ただし書の「損害の発生を防止するのに必要な注意」を、本件であれば、Bが壁に重量物を立て掛けるなど、殊更外壁を痛めるような行動をとっていなければ、「損害の発生を防止するのに必要な注意」はなされていたとする法解釈によって妥当な解決を目指す考え方もあるようです。(私は、これで解答を作成しようとして、多分、零点でした。)

結論としては、センターは、こんな非常識結論の問題を、作ってちゃダメなんですよ。ましてや、非常識解答を、麗麗と披露して、恥ずかしくないのでしょうか。そんなことやってるから「街の法律家のみなさんは(笑)」とか馬鹿にされるんですよ。

関係者の猛省を望みます。

正に我が事であったので、結構、ブチ切れてしまいました。お気を悪くされたのであれば、お詫びいたします。

なお、次の土日に(やっと読み終わりましたので、)記述式問題集の比較記事をアップする予定ですが、本問のような問題に対する現時点の仮説としては、「解答に当たり、著名な判例のないときは、(もっとも、ないことの見極めなので、これも大概ですが…)条文型の問題と判断し、条文の単純当てはめをすること。」が受験生の対応ではないかと推察しています。(全過去問分析後に再度コメントいたします。)あとはこんな感じで判例があるかもしれないことを前提に文言の当てはめだけして、条文だけでも分かっているんだアピールで部分点を狙うかですね。

(苦渋の現場合わせ)20220623修正
文言上は、甲の占有者Bが責任を負い、Bが損害発生防止に必要な注意をしたときは所有者Aが責任を負う。(44字)

それでは、本日は、この辺りとさせていただきます。
今後とも、家内安全を第一に、無理のない範囲でお取組ください。

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